【砂の城】インド未来幻想
 =次は二十六番、ヴァーユ村、……=

 ようやく大会が再開し、少しずつ陽の(やわ)らいできた観客席でホッと息をついた。時折風が席の隙間を吹き抜けてゆき、やっと生きた心地を取り戻し始める。けれどその時にはもう、自分の出番という「運命の(とき)」まであと一時間に差し迫っていた。

 いつ母親から準備に行こうと声を掛けられてしまうのか……幾らシュリーに与えられた力を持つとはいえ、怯える気持ちを全ては払拭(ふっしょく)出来ずにいた。そうした想いを抱えながらじっと固まるナーギニーの周りでは、反対に小さなどよめきが発生し、男達の顔が右往左往と何かを探し始めていた。

「なぁ……ナーギニーって三十二番だろ? そろそろ支度をしに天幕へ来るんじゃないか? 俺、まだ『噂のナーギニー』を見たことがないんだよな~まぁ、どうせシャニ様に取られちまうんだろうけどさ」

 ――というどよめきと探索の眼である。


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