【砂の城】インド未来幻想
「はい」

 その一言は、初めて彼女が彼を真正面から見据えて発した心からの返答だった。

 少女は決して青年から瞳を逸らそうとはしなかった。不安から成功は生まれない。けれど自信からは……生まれることもあるかもしれない。

「うん。その調子だ」

 彼は彼女の真摯な眼差しに満足したように、体勢を立て直し微笑んだ。

「君に会える日を楽しみにしているよ」

 そう言って、少女を母親の(もと)へと急ぐように促した。ナーギニーは再び礼を言い、横をすり抜け天幕目指して駆け出した。その背中は一回り成長したかのようにすっとして、大きな決意を宿していた。

 彼との再会を信じて、振り返りはしなかった――。


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