婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 それから半年が過ぎ、なんとか立ち直れたのは支えてくれる存在があったからだ。

 宮廷治癒士を取りまとめる治癒室のエリアス室長は、こんな私でも穏やかな笑顔で受け入れてくれた。父には随分と助けてもらったと、私のこともよく面倒を見てくれて、ここに来てやっと人の温かさに触れられた。

 どこかで聞いたのか執事長トレバーからの手紙も届いて、ずっと私を心配してくれていたのだと知ることができた。

 それともうひとつ。秘密の存在たちがずっとそばにいてくれた。

「はあ、またやられたわ。すぐ着替えないと風邪を引いてしまうわね……」

 いつものように嫌がらせで水魔法のウォーターボールを当てられて、全身びしょ濡れになってしまった。さすがにこの半年で随分とメンタルが鍛えられた。悪口を言われたくらいで傷ついていた自分が、もはや懐かしい。

 だけど面倒なことに治癒士の制服を着替えないと仕事ができない。白地のワンピースの胸元には青い十字のマークがついていて、そのマークは水を含んで濃紺色になっていた。青い縁取りのスカートの裾から、ポタポタと雫が落ちている。

 風属性の魔法が使えたら一瞬で乾かすことができるだろうけど、私は治癒魔法しか使えない。

 深いため息をつくと、突如私の周囲に風が渦巻く。
 風がやむと同時に、銀色の美しい翼をはためかせ手のひらサイズの幻獣バハムートが姿を現した。

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