婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 僕に用意してもらった客室のバルコニーへ出ると、手すりの上でバハムートが地平線に沈む太陽を見ていた。そっと隣に立つと、視線はそのままでバハムートが声をかけてくる。

《主人殿、申し訳ない。ラティシアを守りきれなかった》

 珍しく落ち込んだ様子のバハムートが、ドラゴンの特徴であるなで肩をさらに落とした。僕が到着した時はちょうどバハムートが空で翼を撃ち抜かれたタイミングだった。それまでのやり取りはわからないけれど、相手も悪かったし善戦したのではないかと思う。

「そうだな、まあ、いいよ。なにがあっても最終的には僕がラティを守るから。それより、この後ラティを空中散歩に連れていきたいから、頼めるかな?」
《当然だ! 我に任せろ!》
「それと、これは頑張ったご褒美だよ」

 そう言って、イライザに用意してもらった魔石を、目の前に転がした。途端にバハムートの青い瞳が輝き出す。

《なんと! 失敗した我にこのような餌をくれるのか!?》
「今回はね。でも、わかっていると思うけど、もし本当にラティになにかあったら君ごと世界を吹き飛ばすからね?」
《う、うむ、承知した》

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