婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 バハムートも頑張ったようだし、今回はこれでいいだろう。空中散歩の目的地を伝え、バハムートが魔石をボリボリ食べるのを眺めていた。しばらくするとバルコニーの下に庭園から犬の鳴き声と、なぜかラティの声が聞こえてきた。

 視線を落とすと人の丈ほどある大きな犬が、ラティにじゃれついている。ラティはすでに風呂を済ませたのか、艶のある髪をなびかせて、新しいワンピースに着替えていた。犬はラティを乗せ、キャッキャウフフと騒いでいる。

 ……犬だろうが竜だろうが人間だろうが、雄が好意を持ってラティに近づくのは非常に不愉快だ。

「あれは……雄だね。バハムート、下に降りるよ」

 慌てたバハムートは残りの魔石をかっ込み、僕を乗せてラティの背後へとゆっくりと降り立った。バハムートの翼によってふわりと風が吹き抜け、犬が動きを止めた。

「ラティ、ずいぶん楽しそうだね?」
「うわっ! フィル様!?」
《……誰だ、お前》

 ラティは僕が現れたことに驚いて、犬から飛び降りた。
 敵意をむき出しにして僕を睨みつける銀色の犬が、人間の言葉を話した。なるほど、銀色の毛並みと瞳——この犬は幻獣だ。それなら僕のやる事はひとつ。

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