婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 ラティを部屋まで送り、バハムートとフェンリルは護衛として残してきた。
 僕の部屋に戻ると、暗闇に紛れて何者かの気配がする。魔力の雰囲気から、僕の手足になる影だとわかった。

「フィルレス様。ご報告にまいりました」

 青い髪の青年が影からするりと姿を現す。僕の影たちは特殊訓練を積んでいて、闇から闇へと移動する影移動という魔法が使える。

 僕はここへ来る前に手配してきた政務の件だと察した。この件を片付ける準備のために、どうしても王都を離れられずラティを先にコートデール領へ送りだしたのだ。

「シアンか。首尾はどうだ?」

 シアンから渡された書類にざっと目を通していく。あまりにも僕の計画通りに運んでいて、笑いが込み上げてきた。

「ははっ、古典的な手を使ったけれど、あっさり引っかかったね。本当に馬鹿で助かる」

 罪を犯しても裁かれることなく、今も好き勝手生きている奴らだ。これでも生ぬるいくらいだけど、やりすぎると僕の愛しいラティが悲しむかもしれない。

「当時書類を処理した役人たちとカールセン伯爵家の家令も証人は十分だ。ナダリー公爵家も僕には逆らわないから問題ない。では、この手紙を届けてくれ」
「御意」

 僕が用意しておいた手紙をシアンに渡すと、また闇に紛れて姿を消した。受け取った書類は、僕の手のひらの上で炎をあげる。魔法を使って灰すら残さず焼き尽くした。

「さあ、王都に戻り、僕のラティを苦しめた害虫どもを駆除しよう」

 僕は月明かりが差し込む部屋で、決してラティには見せない残酷な笑みを浮かべた。

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