婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 治癒士をしてきて、さまざまな患者を見てきた。貴族のお嬢様なら目にしないような患者もいた。その中には親から虐げられている子供もいた。

 私が気付かないと思っていたのだ。公爵家から来る使いは身分もしっかりしているから、こんな状況の子供がどんな風になるか知らないとでも思ったのだろう。だけど、こんなの見逃せないし許せない。

「フェンリル」

 低く短く、新しい友人の名を呼ぶ。私の声に呼応して、影の中からすぐに私の背丈ほどのフェンリルが現れた。

《ラティシア、呼んだか?》
「ええ、害虫駆除なんだけど、頼めるかしら?」
《虫は好きじゃないけど、仕方ねえな》
「シスターを捕捉して。吐かせたいことがあるの」

 それからほんの数分でケリがついた。
 フェンリルに咥えられたシスターが、泣き叫びながら補助金の着服と子供たちへの虐待を認めたので、騎士へ引き渡した。今回は控えめに暴れたので誰も怪我はしていない。

 子供たちの状況確認が終わり、すぐに治癒魔法をかけてルノルマン公爵様へ後のことを託した。
 その後シスターは投獄され、子供たちはルノルマン公爵様の伝手でちゃんとした家に養子に出されることになった。

 今回のレポートは、フェンリルを暴れさせて申し訳ないと書いておいた。

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