婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

「そ、そう……わかったわ」

 引きつった笑顔だったけれど、了承してくれてホッと胸を撫で下ろす。

 そして私は今日一番の気合を入れて、フィル様の膝のうえに腰を下ろした。
 背中に腕を回すとフィル様はキリッとした目元を緩めて、私にだけ向ける甘い眼差しで見つめてくる。
 エルビーナ様はポカンとして、その様子を眺めていた。

「はあ……これができなくて、もう限界だったんだ。ラティの柔らかさも、花のような香りもたまらない……!」

 ぎゅうっと抱きしめて、私の胸元に顔を埋めるフィル様をただただ受け止める。
 最初は寄り添っているだけだったのに、手を繋ぐようになり、抱きしめられるようになり、膝のうえに座るか添い寝するか選べと言われたのは、専属治癒士になって二週間ほど経った頃だったか。

 本当は恥ずかしくて誰にも見られたくなかったけれど、背に腹は代えられない。

 フィル様の背中に回した手のひらから、そっと癒しの光(ルナヒール)を送り込み、午前中の政務の疲れを解消した。深く深呼吸するたびにフィル様の熱い吐息を感じてソワソワするし、心臓は壊れそうなほど鼓動しているけれど、平静を装う。

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