婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 本当は心臓はバクバクを音を立てていたし、膝も震えていたけど弱みを見せるのは嫌だった。

「黙れ! それよりも君との婚約は解消だ!」
「え……? 突然どういうことですか!? それにカールセン伯爵家はどうなるの!」
「それは問題ない。私はビオレッタを妻にした。これからは私たちがカールセン伯爵夫妻としてやっていく」
「なっ——」

 マクシス様の言葉がほとんど理解できない。
 だって先日、私との婚姻宣誓書と代理で領地経営する書類にサインしたはずではないか。それなのになぜビオレッタを妻にして、そのふたりがカールセン伯爵になるのだ?

 こういった養子はよくあることなので、相続の時に揉めないように法定相続人は登録制となっている。
 法定相続人に名前がなければ家督も継げないし、遺産も受け取れない。年齢などの問題で代理を立てることはあっても、あくまでも期間限定の話だ。

「——正当な後継者は私ですわ」
「だから君がサインした譲渡書によってビオレッタが後継者となり、その夫である私が代理当主としてカールセン伯爵になったのだ」
「委任状は確かにサインしましたが、譲渡書なんて知りませんわ!」
「お義姉様ったら見苦しいわ。いい加減にしてよ。ちゃんと確認しなかった自分が悪いのでしょう?」

 そんなはずはない、書類は隅々まで読んで、内容も納得したうえでサインしたのだ。その後に書類を差し替えたとしか考えられない。まさか、ふたりで仕組んで私を騙したのか?

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