虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない~イケニエにされたはずが好感度MAXで歓迎され祝福され愛されて嫁ぐことになりました~

「百年と三年も待ったのですから、離れていた時間を埋めるように傍に居ます。だから大事なものを手放すほど私は愚かではないですよ」
「──ッ」

「じゃあ、どうして会いに来てくれなかったのですか」と口にしかけて言葉を呑み込んだ。そんなに思ってくれるのなら、放っていたのか。唇が震えて、涙で嗚咽が漏れた。

「もし、そうなら……この三年間、会いに来てくださらなかったのですか?」

 少し棘のある言い方をしてしまった。
 それに対してセドリック様は「実は……ですね」と妙に歯切れが悪そうに言葉を続けた。

「竜魔人は常に魔力が高いため、魔力が全くないエレジア国に赴くとそれだけで異常気象はもちろん災害が起こりやすくなり、オリビアがその災害に巻き込まれないため──というのが一つ」
(あ。魔力が高いということは……周囲に与える影響があるということ……。それ以外にも?)
「三年前、オリビアがエレジア国に保護された頃でしょうか。貴女に会いたい思いが強まった結果、フランと魂の同調が出来るようになり、眠っている夜間は完全にフランの体で動き回ることができるようになったのです」
「!」

 フラン。その名前に私は顔を上げた。

「フランの器を通して傍に……いたのですか?」
「ええ。とはいっても夢見心地のようなもので、お恥ずかしい話オリビアと一緒にいることが嬉しくて貴女の環境をよく観察していませんでした。それに関しては本当に申し訳ありませんでした」

 グラシェ国の竜魔王代理であるセドリック様が、ただの人族の私に頭を下げる。ありえないことなのに、彼は誠心誠意謝罪してくれた。本当に彼はフランだったのだろうか。
 フランの行動を思い返す。

「……夜になるとフランがやけに甘えてきたのも、水しか出ないお風呂を温かくしたことや、小腹がすいてしまった時にウサギやらキツネを狩ってきたのは──」
「ああ、懐かしいですね。真冬なのにお湯が使えなくて困っていたことや、眠っている時に寒そうにしていたので炎魔法でお湯を沸かしたり、部屋の温度を上げたりしていましたね」

 フランはオコジョの愛らしい姿だったが上位精霊だと聞いていたので、自分よりも体格の大きなウサギや狐を狩ってくることができたのだと思っていた。水をお湯にする魔法も同じ理屈であまり深く考えていなかった。

「オリビアがいつも、お腹を空かしていたので、ちょうどいい小動物を狩ってきたあと『食事環境が悪いのでは?』とエレジア国に抗議(クレーム)を行い、魔物除けの結界をぶち壊してやりました。王族は面白いぐらい慌ててすぐに改善すると言っていましたっけ」
(一時期、食事が出てこないことがあったけれど、突然食材などが支給されたのはセドリック様が動いたから?)
「離れていましたが夜だけは貴女の傍に居られることで三年の間、堪能していました。私の魂の一部でもあり、貴女の危機に関しては敏感に反応していたと思います。意識が同調してないときは本能的に動いていたでしょう」
(ほ、本能……。たしかに甘えるのも全力だったような)
「しかしオリビアにとってつらい三年を過ごさせてしまい、本当に申し訳ありません」
「いいえ。……三年間つらいことは多かったですが、それでもフランが傍に居てくれて何度も助けてくれたから寂しくはなかったのです」

 そうだ。フランが傍にいてくれたら──。
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