麗しの王様は愛を込めて私を攫う
「リシウス陛下、メアリー妃の支度が整いました」

 侍女に呼ばれ、出迎えに行かれた時のリシウス陛下のお顔は、はじめての狩で入った森で、何かを見つけられ矢を放たれる前のお顔と同じように輝いていた。


 真っ白なドレスの胸に、リシウス陛下の瞳と似た色の大きな宝石が輝いている。
 結い上げられた金の髪は飾りなど要らぬほど艶やかで美しい。
 その頭上にリシウス陛下が、この国の正妃だけがつけることを許される黄金のティアラを載せる。

 それからリシウス陛下は隠し持っておられた一本の赤い薔薇の花を差し出された。

「メアリー、僕は君に永遠の愛を誓うよ」

 リシウス陛下はメアリー様を甘く見つめられる。
 メアリー様はこれまでにないほど嬉しそうな笑みを浮かべ、薔薇を受け取られた。

「私も、リシウスあなたをずっと愛します」


 リシウス陛下がメアリー様を抱きしめようと腕を伸ばされる。
 ーーと、ここで私の出番となった。

 私は躊躇う事なく陛下の前に腕を伸ばす。

「はい、ここまでです。この先は式の後でなさって下さい」

「アダム……」

 なぜだ、と言わんばかりに鋭い視線を向けられたが、生まれた時からお仕えしてきた私にはなんて事はない。
 それに、リシウス陛下がメアリー様を抱きしめて、そこで止められるとは思えない。
 なぜなら、陛下は一度メアリー様に許されてからと云う物、所構わず熱い口づけをされる様になってしまわれたのだ。

 これもまた、私の教えの足りなさである。


 その後、結婚式は滞りなく行われた。

 リシウス王の結婚を祝い、国中が喜びに満ち溢れた。

 リシウス王がメアリー妃の肩を抱き、幸せそうに笑っておられる姿を見た私と臣下達は、喜びのあまり涙した。
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