1monthCinderella〜契約彼氏は魔法使い〜

チャイムが聞こえる。

スマホじゃ無い音。

何だっけ？

って、そうだった。自分の部屋に戻って来たんだ。いつのまにか眠っていたみたいだ。
昨日着ていた服は床に散らかり自分自身は下着姿で鏡を覗くと爆発した髪に化粧が流れて血色の悪そうな顔が映っている。

もう一度チャイムがなり慌ててクローゼットからスウェットを取り出すと袖を通しながら玄関に向かった。

京子だろうか？

ドアスコープを覗くとノーネクタイの竜基さんが立っていた。
おずおずとドアを開けると竜基さんはホッとした表情になった。

「ここに居てくれてよかった」

「ここしか行くところがないですから」

「昨日、志摩に何か言われた？」

「別に」

「話をしよう」

「きちんと役割は果たしますが、今日は一人でここにいたいです。夜には帰りますから」

「わかった。8時に迎えにくる」

「別に来なくてもいいです。ちゃんと竜基さんの家に行きますから」

「いや、迎えにくるよ」

押し問答になりそうだから「わかりました」と言ってドアを閉めた。

うわああああ

ベッドに倒れ込むとクッションに顔を埋める。

探してくれていたことが嬉しかったのに、シマってきっと昨日の女性の名前だ。
竜基さんが名前を呼んだのがすごくいやだった。しかも呼び捨て、だから素直になれなかった。

家政婦と言われて頭にきたけど、もしかしたらそう言うふうに言ってるのかもしれない。
でも、それ以前に契約中なのにあの人と会っている竜基さんがいやだ。
あの人が好きだとしても、この1ヶ月は恋人同士なんだから他の女と一緒にいないで。
何もやる気が出なくて、食べることも面倒で、ただひたすらベッドの上でゴロゴロしていたら約束の時間になっていた。

チャイムがなる。

割り切ろう。

ドアを開けると「籠城されるんじゃ無いかと思った」と言って優しい笑顔を見せる。

「契約ですから」

それだけを言うとボサボサ頭にスウェット姿で助手席に座った。

「志摩の事だけど」

「あーいいです。必要ないですし、聞く必要もないです。私はあくまでも契約で沢山のものを頂いた対価ですから」

「そういう言い方は少し傷つくな」

私はもっとたくさん傷ついた。

何も言いたくないし聞きたくないから横を向いて車窓を眺めていた。

「志摩の事だけど」

「聞く必要は無いって言いました」

「わかった」

低い声で怒っているかもしれないけど、やっぱり恋人とかいいながら家政婦だと言っているのが悔しい。声に出したら泣きそうだから、もうこの話はしたくない。

触れ合うこともキスもすることなく、ベッドも極力離れて寝た。