スパダリ部長に愛されてます
月曜日、平常通りと自分に声をかけながら、出社する。
26階のエレベーターを降り、ドア横にIDカードをかざして、『営業企画部』に向かう。
すれ違う人に「おはようございます」と挨拶しながら、自分の席につく。
奥のデスクにいる部長をちらっと見ると、ばっちりと目が合った。
「おはよう」と余裕のある挨拶をされたが、
私は、帰り際のキスを思い出して、
「お、ぉはようござぃます」と変な挨拶をしてしまった。
あーーー、はずかしい。
動揺してるのばれてるよね、絶対。

朝から部長が気になっていたのも束の間、
部長自身も忙しいけれど、私も今日の仕事に取り掛かる。
来週締切の資料作成を追い込まなくちゃいけない。
朝一番の朝礼が終わると、直属の上司山下課長と打合せをし、企画書作成の打合せをする。

午後になると、外出する人が多く、部内はほんの少しのんびりとした空気に包まれる。
そんな中、
「古谷さん、ちょっといいかな」
営業部のイケメン代表近藤さんがデスクにやってきた。
「おつかれさまです。」
外出している私の左隣の橘君の席に座ると、
なぜか嬉しそうにこちらの顔を見ながらうなずく。
「うんうん、ちょっと教えて欲しいことがあってね。」
「私で大丈夫ですかね。」
「うん、いいのいいの。」
聞いてみると、質問の内容はたいしたことはない。
こんなことがわからない近藤さんじゃあるまいし、どうしたのかしらと不思議に思っていたら、
少しきょろきょろ周りを見たあと、
顔を寄せてきて、
「今度、ご飯食べに行かない?」と言われた。
「はい。良いですね。また皆さんで行きましょうね」と返事をすると。
微妙な顔をされ、
「いや、あの、ふた…」と近藤さんが何かを言おうとした瞬間に、
上から、「近藤、この前のF案件、どうなった?」と打合せから戻ってきた部長の声が降りてきた。

「はぁい、部長、まだ途中です。
古谷さん、またね。」
近藤さんは、さっと立ち上がると、私にウィンクして、
部長と肩を並べて部長の席へと歩を進めていった。
二人で顔を突き合わせて真剣に打ち合わせをしている。
部長と一瞬目が合ったけれど、特に意味はなさそう。
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