Restart~あなたが好きだから~
七瀬との通話を終えた圭吾は、チラリと時計に目をやると


(ひと息入れるか・・・。)


そう思って、ノートパソコンを閉じた。コ-ヒ-が飲みたいと思ったが、秘書は不在で、頼む相手はいない。圭吾は席を立ち、自らの手でコーヒ-を煎れると、カップを手に執務室に戻り、窓から外を眺める。陽は既に没し、眼下には帰宅を急ぐビジネスマンたちの行き交う様子が見える。それを眺めながら、圭吾はカップを口に運んだ。


「失礼するぞ。」


そこに人事部次長の澤崎貴大が顔を出した。


「藤堂さんはもう帰ったのか?」


「いや、ビーエイトとの打ち合わせで外出した。今日はそのまま直帰するそうだ。」


窓の外に視線を向けたまま、圭吾は答えた。


「そうか。本来の秘書業務だけでも大変なのに、お前にバディになれと言われ、副社長肝いりの秘密プロジェクトにまで首を突っ込まされて・・・。なのに、キャパオーバ-になるどころか、最近は一段と活き活きしてるように見える。大したもんだ。」


感心する澤崎に


「七瀬なら当然だよ。」


と言う圭吾は、相変わらず外を見たままだ。


「そうだな。まぁ、お前に藤堂さんを推薦した俺の目に狂いはなかったってことだ。」


「・・・。」


「それに、今や彼女は社内はもちろん、取引先からも注目の的だからな。」


「なんで?」


「彗星のごとく現れた新副社長秘書は弱冠入社4年目の26歳。人の目を惹かずにはおかないあの容姿に、有能としか言いようのない仕事ぶりという文字通りの才色兼備。その上、我が社の後継者たる副社長の未来のパートナ-に内定済と目されれば、注目するなという方が無理だろ。」


揶揄うような澤崎の言葉に


「パートナ-に内定って、皇室かよ。」


圭吾は一瞬苦笑いを浮かべたあと


「それにまだ内定なんかしてないよ。」


と言いながら、ようやく澤崎に視線を向けた。


「えっ、どういうことだよ?だってお前たち、もう付き合ってるんだろ?」


驚いたように澤崎は言う。が


「微妙だな。」


そう答えた圭吾の表情は浮かないものだった。


「おいおい、マジかよ?」


驚きの声を上げた澤崎に


「結構・・・手ごわい。」


呻くような声で、圭吾は答えた。


「お前にも、マジで口説いても落とせない女がいるんだ?」


「ディスるな。」


「別にディスってるわけじゃない、本気で驚いてるんだ。」


と言う澤崎に


「正直、ここまで手こずるとは、俺も思ってなかった・・・。」


答えた圭吾の言葉には、ため息が交じっていた。
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