Restart~あなたが好きだから~
夜間の病院は、当然のように人影は少なかったが、でもある一角、救急外来だけは例外だった。受付で、大和が運び込まれたことを確認した七瀬は、そこで教えられた手術室に、圭吾と愛奈と共に急ぐ。辿り着いたその場所の扉の上には、「手術中」のランプが点灯していて、その横のイスにはサラリ-マン風の男性が2人、頭を抱えるように座っていた。


「あのう、大和の同僚の方ですか?」


七瀬が声を掛けると、彼らはハッと顔を上げ


「はい。柊木のご家族ですか?」


1人が問い返して来る。


「いえ、家族ではないのですが、実家が隣同士のその・・・古い友人というか幼なじみです。近くにいたものですから、大和のご両親の代わりに取り敢えず私が・・・。」


自分の立場を説明しながら、七瀬は自分と大和の関係のあやふやさを改めて自覚させられる。しかし、特に彼らがそのことを深追いしてくることはなく、事故の状況を説明し始めた。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

宴が終わり、したたかに酔った大和が居酒屋を出ると


「大和、大丈夫か?」


心配そうな声が掛かる。大丈夫だと言うように彼が手を上げると


「バレンタインなんて、もう古い。俺なんて、昔からチョコなんて縁がないんだ。時代がやっと俺に追いついて来たんだ。」


なんて、くだまいている言葉が聞こえて来る。思わず笑ってしまった大和だったがふと


(そう言えば俺、ずっと、バレンタインにチョコ貰って来たんだな・・・。)


弥生と付き合う前から、ずっと・・・そんな思いが浮かんで来た。お世辞にもモテてた訳じゃない。特に小学校の高学年以降は陰キャ扱いで、クラスメイトから蔑ろにされていた自分なのだ。なのに、そんな自分の横にいつもいてくれて、毎年バレンタインチョコをくれた女子がいたのだ。


その子とは物心ついた頃から、いつも一緒にいた。いるのが当たり前のいわば腐れ縁。毎年チョコをくれるのも、それ故だと思って来た。だから、自分に恋人が出来てからは、その子が自分から離れ、チョコをくれなくなったのは、当然だと思っていた。だが・・・。


彼女の本心は違っていた。彼女が毎年、どんな思いで自分のチョコをくれていたのか、知ったのはつい最近のことだった。そして、自分と離れてから、彼女はどんな思いでバレンタインを過ごしていたんだろう?今日もアイツはどうしてるんだろう・・・?


彼女の悲しそうな顔が、瞼の裏に浮かんで来て、ギュッと胸の締め付けられる思いがする。
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