Restart~あなたが好きだから~
ナ-スコールを押して、大和を託した礼子は、七瀬を休憩室に誘った。


「おばさん、どういうことなんですか?」


席に座るのも、もどかしげに尋ねる七瀬に


「見ての通り、大和は記憶を失ってしまっているの。」


悲し気に礼子は答える。その言葉に息を呑む七瀬。


「目を覚ました時には、私にちゃんと呼び掛けて来たの。だから、急いでお医者様をお呼びして、それで先生が大和といろいろお話しして下さったんだけど・・・。事故に遭ったことは覚えていた、何か考え事をしていて、かなり酔っていたから、気が付かないうちに車道に出てしまっていたって。何を考えていたのかは覚えていないし、その後のこともわからないって答えてた。それは普通のことだって、先生もおっしゃっていたんだけど、その後、話して行くうちに、覚えていることとそうじゃないことあることがわかって来たの。例えば、私や主人のことはわかるし、弥生さんのことも覚えてる。でもあなたやあなたのご家族のことは忘れてるみたいなのよ・・・。」


申し訳なさそうに言う礼子に


「そんな・・・。」


七瀬は愕然とする。


「いろんな出来事も覚えていたり、いなかったりで・・・部分記憶障害って言うらしいんだけど、原因は脳の損傷や外傷がまず考えられる。でも先生は検査の結果を見る限り、それはないとおっしゃるし、そうじゃないとすると、事故にあった際の心因的ショックによるものだと考えられるって。」


「それでいずれ、記憶は戻るんですか?」


一番知りたいことを、七瀬は勢い込んで尋ねるが


「それは正直、先生にもなんとも言えないそうなの。外科的要因なら明確な治療方法があるけど、心因的なものが原因となると、なかなか効果的な治療方法はないって。もちろん、ある日、何かのきっかけで取り戻すこともあるし、徐々に回復する場合もある。ただ過去の症例から見ても、残念ながらこのまま回復しないケースも十分考えられるって。」


という答えに言葉を失い


「とにかく、今は身体の回復を優先しながら、様子を見ましょうというのが、先生の結論だったの。」


礼子の続きの言葉は耳に入っていなかった。
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