Restart~あなたが好きだから~
事故から3ヵ月ほどが過ぎ、大和の身体は徐々に回復してはいたが、失われた記憶の回復は遅々として進まなかった。


「そろそろ、外の世界に触れて、刺激を受けることも必要な時期かもしれません。」


そんな言い方で主治医から外出許可が出ると、真っ先に大和の口から出た希望は


「もうすぐ弥生の月命日だから、お墓参りに行きたい。」


だった。だが、その日は、大和の両親が2人ともたまたま所用で同行できなかった為


「なら、私が付き添います。」


と七瀬が申し出た。そして当日、朝早く病院を訪れると、大和は既に外出着に着替え終わっていた。


「おはよう、七瀬さん。今日はありがとう。」


入って来た七瀬に、大和はそう言って頭を下げる。「七瀬さん」と彼に呼ばれることにも、だいぶ慣れてしまった。自分が小さい頃からの幼なじみであることは伝え、アルバムを見せたり、思い出話を語ったりしたが、彼が七瀬の記憶を蘇らせることはなく、今日に到っている。


大和のリハビリは進んでいるが、まだ長距離を自力で移動するのは無理で、弥生の眠る墓地までは、七瀬の運転で向かい、現地に着いてからは車イスを使うことになっていた。看護師の介助で大和が助手席に乗り込むと、七瀬が車をスタ-トさせる。


「いい天気でよかったね。」


「うん。雨だと七瀬さんの運転が大変だからね。それより、今日は僕の為に、仕事わざわざ休んでもらってもらっちゃって・・・本当に大丈夫だったの?」


「有休がだいぶたまっちゃってて・・・ちょうどよかったんだよ。」


「そっか、それならよかった。本当に助かります。」


そう言って、七瀬にまた頭を下げる大和。最初の頃に「藤堂さん」と呼び掛けられた時は、さすがにかなりショックを受けたし、今も言葉に敬語が混じるなど、態度もまだまだ他人行儀だが、さん付けとは言え、名前呼びになり、こうして2人で出掛けることに抵抗感は持ってはいないようだから、それなりに心を許してくれるようになったんだろうと七瀬は思っていた。
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