Restart~あなたが好きだから~
「七瀬の笑顔って本当に可愛くてさ。」


「えっ?」


突然、意外なことを言われて、ハッと七瀬は顔を上げる。


「あなたに初めて会った時、その笑顔に私はまず惹かれたんだ。そして思った、この子とならいい友達になれるって。」


「それはそれは・・・お褒めにあずかって光栄です。」


七瀬は照れ隠しにおどけながら、礼を言うが


「でもさ。」


と言葉を続ける沙耶の表情は真剣だった。


「その笑顔、最近私以外に見せたことある?最近会社でいつ笑った?」


「沙耶・・・。」


急に問い詰められるような形になって、戸惑いを隠せない七瀬だったが


「う~ん・・・会社ではほとんど笑わないなぁ。だって、仕事に行ってるんだし・・・。」


とりあえずそう答えると


「会社で仕事だけしてるわけじゃない。休憩時間もあるし。みんなで談笑することだってあるでしょ?」


沙耶は続ける。


「そりゃそうだけど・・・でも私はご存じの通り、職場で煙たがられてるし、談笑なんて・・・。」


「出来ないの?」


「まぁ、そういうこと。私になんか誰も近付いて来ないから・・・。」


「それで平気なの?」


「えっ?」


「平気じゃないから、私と会って愚痴るんだよね?」


「沙耶・・・。」


「答えて、七瀬。」


真っすぐ七瀬を見つめながら、沙耶は尋ねる。


「平気じゃないけど・・・仕方ない。私がそういう道を選んだんだから。」


寂し気な表情を浮かべて答える七瀬。


「課内で一番の成績上げて、自分にも人にも厳しくて・・・七瀬が優秀なのは私だって知ってる。だからさ、本当にバリキャリとして生きていきたいなら、それはそれで構わないと思うよ。正直、カッコいいと思うし、尊敬もする。でもさ、この間七瀬はなりたくてバリキャリになったんじゃないって、はっきり言ってたよね。」


「・・・。」


「大学時代も、あなたは出会いを拒み続け、告ってくれた人には、けんもほろろの態度をとってた。それを社会人になっても続けようとして、自分に言い寄ろうとする男を寄せ付けたくなくて、自分を望まない出会いの場に誘おうとして来る女を拒みたくて、仕事に没頭して見せてる。結局初恋を拗らせて、恋愛に向き合えなくて、恋愛から逃げてるだけじゃない!」


「・・・。」


「大切な初恋を自分から手放してしまったことを後悔し続けて、それを人に知られたくなくて、自分を偽って、虚勢を張って、でも結局はそんな自分に疲れを感じて来てて・・・このままで本当にいいの?七瀬!」


「沙耶・・・。」


「このままじゃ、七瀬はいつか壊れちゃうよ!」


「壊れちゃう?私が?」


「そうだよ、私はそれが心配なの。」


そう言って、沙耶はじっと七瀬を見つめるが、彼女は何も反応しようとせず俯いている。
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