Restart~あなたが好きだから~
その日も田中を引き連れ、取引先を訪れた七瀬は、商談を無事まとめ上げ、課長に電話で一報を入れると


「ちょっと時間があるから、お茶でも飲んでから帰ろうか?」


腕時計に目をやって、田中に声を掛けた。珍しいことを言い出したなと思いながら、しかし反対する理由も断る勇気もなく、頷く田中。目についた喫茶店に入り、注文を済ませて、改めて向かい合うと


「田中くん。」


七瀬が呼び掛けて来るから、田中は思わず身体を固くするが


「今日の資料、すごく見やすかった。お取引先にも説得力あったと思うよ。それに途中でフォロ-入れてくれたよね、私としたことが、うっかりしちゃって・・・あれは助かったよ。本当にありがとう。」


そう言うと、ニッコリと田中に笑顔を向ける七瀬。


「い、いえ。とんでもありません。」


(か、可愛い・・・。)


今回は何のダメ出しかと身構えたら、まさかのお誉めの言葉に、お礼まで言われ、とどめは見惚れるような素敵な笑顔のご褒美付き。田中は思わず顔を赤らめると、少し俯いてしまう。


「毎日さ、しんどいよね?」


「えっ?」


「ずっと私に連れ回されて、厳しいことばかり言われて・・・嫌になっちゃうよね。」


「そ、そんなことはありません。」


慌てて首を振る田中を


「本当?別に無理しなくてもいいんだよ。あなたに毎日、嫌な思いさせてることは、これでも私、ちゃんと自覚してるから。」


そう言って、覗き込むように七瀬は見る。


「本当です。それは・・・僕だって怒られるのは嫌ですけど、でも主任がおっしゃってることは、間違ってないってことはわかってますから。自分が仕事出来ないから、主任や周りのみなさんにご迷惑をお掛けしてることもわかってますから・・・。」


「そっか。」


田中に言葉に1つ頷いた七瀬は


「田中くん、私は別にあなたに迷惑を掛けられてるとは思ってないよ。」


優しく言う。


「えっ?」


「あなたが頑張ってるの、努力してるの、私ちゃんとわかってるから。成長したいっていう意欲があるのがわかるから、厳しいことも言う。ちょっと偉そうな言い方しちゃうけど、あなたに見込みがあるから、今は手元に置いて鍛えてるつもりだから。」


「主任・・・。」


「だから・・・これからもいろいろなことを言っちゃうかもしれないけど、信じて付いて来てくれると嬉しい・・・かな。」


そう言って微笑んだ七瀬に


「はい、よろしくお願いします!」


田中は勢いよく頭を下げた。
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