Restart~あなたが好きだから~
「もう、頭を上げて下さい。」


穏やかな口調で田中は言う。その言葉に、一瞬身体をピクリとさせた七瀬は、次に恐る恐る頭を上げ、彼の顔を見た。


「僕は主任の足を引っ張ろうと躍起になってた若林さんに、可愛がられてましたからね。だから、そう思われても仕方ないですよ。」


「田中くん・・・。」


寂しそうに呟く田中を見て、思わずまた七瀬は俯いてしまうが


「でもこれで・・・決心が付きました。」


「えっ?」


次に言葉に、ハッと彼を顔を見る。すると


「突然、こんなことを言って、驚かれるかもしれませんし、ご迷惑かもしれません。でも・・・僕はもう伝えずにはいられないんです!」


田中も、七瀬の顔を真っすぐに見た。そして


「主任・・・いえ、七瀬さん!」


「えっ?」


初めて名前で呼ばれ、驚いたような表情を浮かべる七瀬に


「あなたのことが好きなんです。何ごとにも真っすぐで、そして、厳しい言葉の裏で、いつも僕を優しく見守り、育てようとして下さってた七瀬さんのことが、僕は好きになったんです。」


「田中くん・・・。」


「あなたに対して、僕がそんな思いを向けるなんて、おこがましいということはわかってます。でも、僕たちはもう上司と部下じゃない。だから、あなたとこれからも一緒にいたいという自分の気持ちに素直になろうと決心しました。だから・・・。」


「知らないの?」


懸命に自分の心情を訴える田中の言葉を遮った七瀬は


「私、昔っから恋愛に全く興味がないの。だからそういうの無理なんだ、ごめんね。」


と冷ややかな口調で言うと、田中は思わず俯いてしまう。


「それに私は真っすぐなんかじゃない。計算高くて、強かで・・・だから、田中くんが思ってるような女じゃないんだよ。」


「・・・。」


「田中くんは若いしピュアだから、まだ仕方ないけど、これからはもっと女を見る目を養わないと。これは上司としての最後の忠告だな。」


そう言って、笑顔を浮かべた七瀬だったが、田中は顔を上げない。それを見て、表情を改めた七瀬は


「それじゃ、これで。一人前にするって、約束は果たせなかったけど、あなたには期待してる。これからの成長と活躍を、専務室から見てるから。しっかり頑張ってね。」


と告げる。その言葉に


「はい・・・。」


と答えたものの、田中は顔を上げようとはしない。それを見て、フッと表情を曇らせた七瀬だったが、それ以上は何も言わず、1つ頭を下げると、踵を返した。一歩二歩・・・歩を進める七瀬の目に涙が溢れ出して来る。だが、その涙の意味が、自分でもよくわからなかった。
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