Restart~あなたが好きだから~
翌日、七瀬は久しぶりに自分の意思で、実家に向かった。異動になり、職務が変わることを、両親に直接報告しようと思ったからだ。娘の報告を聞いた律子は


「それで、今度の職場は、今までより少しは暇になるの?」


と問い掛けてくる。


「そんなの、行ってみないとわかんないけど、でも営業よりは拘束時間は、短くなるかな?」


七瀬が答えると


「それはいいことね。じゃ、これを機会に、婚活でも始めなさいよ。お見合いのお話も、兄さんに進めてもらおうかしら。」


笑顔で言って来る母親に、結局そっちに話を持ってくのかと呆れながら、でも予期出来ていたので、七瀬は適当に相槌を打って、その場を凌いだ。


親との話を終えると、七瀬は化粧を直し、鏡で自分の姿を確認すると、実家を出る。といっても、目的地は隣の家。今回、実家に帰って来た目的は、実はこちら。そうじゃなければ、親への報告など、電話でも十分だったが


『大和さん、当たり前だけど、落ち込んでてさ。見てられないんだよ。とにかく1度会ってさ、姉ちゃんからも、励ましてやってくれよ。』


という弟の章からの、再三再四の要請を、とうとう断り切れなくなったからだ。


隣家の前に立ち、インタ-フォンを押すと、扉が開き


「七瀬ちゃん、わざわざありがとうね。」


大和の母親の礼子が笑顔で出迎えてくれる。


「いえ。あの、大和は?」


「ごめんなさいね。七瀬ちゃんが来てくれるってわかってるのに、朝からずっと部屋に閉じこもりっ放しで。とにかく、仕事以外はほとんど外にも出ようともしなくて。まぁ無理もないんだけど・・・。」


「そうですか・・・それで、佐倉さんとの話は・・・?」


「全然。とにかく弥生さんは『もうお話することはありません』の一点張りで、直接お話も出来ない状況なのよ。そんなお嬢さんには見えなかったんだけど・・・もうどうしようもないのかしらね。」


困惑を隠せない表情で言う礼子に


「そうですか・・・じゃ、取り敢えず失礼します。」


そう断って中に入ると、そのまま勝手知ったる様子で、七瀬は二階に上がって行く。子供の頃、いや高校2年のあの日の直前まで、当たり前のようにお互いの家を、部屋を行き来していた七瀬と大和。でもそれから時は流れて・・・。


久しぶりに幼なじみの部屋の前に立ち、大きく1つを息をした七瀬は


「大和、入るよ。」


かつてのように中に呼び掛けると、扉を開けた。
< 57 / 213 >

この作品をシェア

pagetop