Restart~あなたが好きだから~
そしてまた、週が明けた。この日、七瀬はいつもより早く、家を出た。通い慣れた通勤ルート、やがて見えて来る見慣れた建物。でも彼女が向かうべきオフィスは今日から変わる。


エントランスからエレベ-タ-に乗り込み、先週までとは違うフロアのボタンを押す。そこは、営業部第二課のあるフロアより、5フロア上にあった。


エレベ-タ-を降りると、そこは重役、取締役のオフィスが並んでいる。一般社員がなかなか立ち入ることがないこのフロアには、やはり言い知れぬ圧迫感が感じられ、さすがに七瀬は、気後れしている自分を意識せざるを得なかったが、それでも今日からは、ここが彼女のビジネスフィールドになるのだ。


1つ深呼吸をして、歩き出した七瀬は、やがて1つのドアに前に立った。そして、再度深呼吸をして、意を決して、ノックをする。


「失礼します。」


そう言って、中は入った七瀬は


「おはようございます。」


深々とお辞儀をした。


「おはようございます。今日からよろしくお願いしますね、藤堂さん。」


落ち着いた声で、そう返事をして来たのは、城之内理子(じょうのうちさとこ)。先任の専務秘書だ。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


緊張を隠せないで挨拶を返す七瀬に


「そんなに緊張しなくて大丈夫よ。この前言った通り、今は専務はご不在だからね。」


城之内は優しい笑顔で言う。辞令が下りてからすぐに、七瀬はここに挨拶に出向いたのだが、その時、現在専務は海外出張中で、戻るのはちょうど七瀬の初出勤日の夕方だと教えられた。


「この前、お渡しした資料には目を通してもらえたかしら。」


「はい。」


「午前中はあれに沿って、私と一緒に動いてもらいます。それで午後は専務をお迎えに空港に行きますから。」


「わかりました。」


「それじゃ、今週1週間のお付き合いになっちゃうけど、よろしくね。」


「はい。」


城之内理子は入社7年目の29歳。ここまで、秘書課一筋のキャリアを歩んで来て、専務の信頼の厚いベテランだが、この度、1歳年上の同僚との結婚が決まり、順調にエリ-トコースを歩む夫を支えるべく、寿退社して、家庭に入ることになった。そして、その後任に七瀬が選ばれたのだ。
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