成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子は今にも泣きそうになるのを堪え、ぎゅっと両手を握る。

 常務が、近くのデスクに置いてあるビラを手に取った。

「皆さんが見ているこのビラだがね。誰かが配ったものかな?」

 常務の問いかけに、近くにいた社員数名が顔を見合わせている。


「あの……。会社のポストに入ってたみたいです。誰かが騒ぎ出して、みんなが手に取りました」

「ふむ。それでこの騒ぎか」

 常務は顎に手を当てると、一旦考えるような仕草をしてから顔を上げた。


「まずは言っておこう。ここに書かれた内容は、真っ赤な嘘だ。安心しておくれ。成瀬くんは、れっきとした独身だよ」

 笑いながら言う常務の姿に、キャーという悲鳴に似た叫びに交じって、安堵の声が漏れ聞こえる。


「でも……この写真は、成瀬課長と真理子さんですよね? この子は? お二人は……どういう関係なんですか?!」

 フロアの奥から、顔をこわばらせた卓也の追及するような声が響いた。
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