成瀬課長はヒミツにしたい
 その様子に気がついたのか、成瀬が後ろ手に手を伸ばし、みんなから見えないように真理子の手にそっと触れる。

 真理子は、はっと顔を上げた。


 ――大丈夫。柊馬さんが一緒だ……。


 真理子は成瀬の背中を見上げ、小さく手を握り返した。


 フロアの真ん中まで来ると、常務がおもむろに成瀬の前へと歩み出た。

「皆さん、一旦作業の手をストップして話を聞いてもらえますかな」

 常務の声は穏やかだが、よどみがない。

 真理子たちは、常務の後について立ち止まった。


 その場にいる全員が、こちらに注目している。

 特に女性社員たちの睨みつけるような目線は、真理子に集中的に注がれた。

「あの子、ランチ会の時も成瀬課長に色目使ってたもん……。自分から言い寄ったんだよ」

「うわ! 見かけによらず大胆―」

 小さな声が聞こえ、真理子がはっと顔を向けると、さっき面談で成瀬にアドレスを渡したと言っていた女性社員が、キッと真理子を睨みつけていた。
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