成瀬課長はヒミツにしたい

突然の接近

「お、おはようございまーす……」

 消え入るような声を出しながら、真理子はサッとフロアを横切る。

 身をかがめるように、自分の席に腰を下ろした。


 昨夜は全く寝つけなかった。

 それもそのはず“クール王子”で名高い成瀬の、買い物カゴを手にした姿を見てしまったのだ。


 ――それに、子供も……。結婚してるってこと? そんな噂、出てなかったのに。


 青ざめた顔でぶんぶんと首を振る。


「真理子さん! 真理子さん!」

 すると卓也が汗をかきながら、駆け足でフロアに入ってきた。

「さっきチラッと聞いたんですけど、やっぱり近々、人事部から何か発表があるらしいですよ!」

「そ、そうなんだ……」

 卓也は真理子の顔を覗き込んで首を傾げる。
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