成瀬課長はヒミツにしたい

家族ごっこ

「水木さん」

 昼過ぎ、ランチから戻った真理子が振り返ると、社長秘書の男性が立っていた。

「一緒に来ていただいて良いですか? 社長がお呼びです」

「え? 社長が?」

 真理子は、秘書の男性の後についてエレベーターに乗り、社長室のあるフロアへ向かう。

 そして緊張する手で、初めて社長室の扉をノックした。

 中から穏やかな声で返事が聞こえ、そっと扉を開けた途端、社長が満面の笑みで出迎えてくれた。


「急に呼び出しちゃってごめんね。真理子ちゃん」

 社長は、やはり乃菜にそっくりな笑顔でこちらを見つめている。

「いえ」

 真理子はドキドキしながら小さく首を振ると、社長にすすめられるままソファに腰を下ろした。

「実はね、柊馬の仕事がしばらく忙しくなりそうなんだよ。だから落ち着くまで、真理子ちゃん一人に家政婦をお願いできないかなって」

 真理子の向かいに腰かけながら、社長が顔の前で両手を合わせている。

「え……」

 真理子は思わず声を漏らした。
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