成瀬課長はヒミツにしたい
 その瞬間、長い腕が真理子の行く手を阻む。

「あなた、昨日見ましたよね?」

 感情のこもらない低い声が、冷たく室内に響く。


 真理子が、小刻みに震える手を握りしめながらうつむくと、小さなため息とともに、成瀬が眼鏡をそっと外した。

 初めて見る“クール王子”の素顔に、真理子の目線はくぎ付けになる。


 ――なんて、魅惑的な瞳だろう……。


 思わず動けなくなる真理子に、成瀬が一歩近寄った。

「確かに、あなただったはずです。水木真理子さん」

 成瀬はそう言うと、真理子の顎を長い指先でくっと捕らえた。

「え……」

 鼻先すれすれに成瀬の吐息を感じ、目眩がしてくる。


「知られてしまったからには、仕方がありません」

 成瀬は相変わらず、感情の読み取れない鋭い瞳を向けたまま、真理子の耳元でささやいた。

「今日の定時後、昨日の場所で……」

 すると成瀬は、何事もなかったかのようにぱっと身をひるがえし、給湯室を後にする。
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