成瀬課長はヒミツにしたい
「え?!」

 真理子は思わず大きな声を出し、慌てて口元を押さえた。

「ちょ、ちょっと! 待ってください!」

 ばたばたと成瀬の後を追いかけたが、その姿はすでに見えない。


 真理子は誰もいない廊下で、腰が砕けたように、へなへなと座り込んだ。

 今更ながらに心臓はドキドキと激しく脈打ちだす。


 ――“クール王子”に、素顔で迫られた……。


 真理子は真っ赤になった頬を押さえながら、もう一度さっきの会話を思い出した。


 ――今日の定時後。昨日の場所……?


 そして突然、脳裏に浮かんだのは、左遷された元営業部長の顔。

 成瀬は人事部長だけでなく、社長からも絶大な信頼を得ている人物だ。

 秘密を知ってしまった真理子を、どうこうするなんて容易いはず……。


「え?! そういうこと?! 私……どうなっちゃうのー?!」

 甘い余韻と不吉な予感に埋もれながら、真理子の悲鳴は誰もいない廊下に響き渡った。
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