成瀬課長はヒミツにしたい
 その時、両手を握りしめてうつむく真理子の目線の端に、動く人影が映った。


「わかりました。では、会見を開きましょう」

 フロアに響き渡る鋭い声に、みんなの視線が一気に集中する。

「社長……」

 いつの間にか戻って来ていた社長は、一言だけそう告げると、成瀬に目配せしてフロアを後にした。


 真理子は成瀬に肩を叩かれ、一緒に社長の後を追いかける。

 後ろでは、専務の嘲笑(あざわら)う声が漏れ聞こえていた。


 真理子は扉の前まで来た時、そっと足を止めてフロアの奥の、システム部の席に目をやった。

 卓也はこの騒動のさなか、一人じっと画面を見つめている。


 ――やっぱり、卓也くんの様子がおかしい……。


 真理子は胸騒ぎを抑えつけるように、ぎゅっと両手を握る。

「どうした?」

 廊下に出ていた成瀬が真理子を振り返った。

「いえ……」

 真理子はそれだけ答えると、成瀬と共にエレベーターに飛び乗った。
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