成瀬課長はヒミツにしたい

重なる心

「今日は本当にありがとうございました」

 マンションの外の広場に出ると、真理子は社長の顔を見上げる。

 社長は真理子の顔を見ると、にっこりとほほ笑んだ。



「今日は、外まで送らせて……」

 乃菜が、幸せそうに眠りについたのを確認してから立ち上がった真理子に、社長はそっと声をかけた。

 いつになく真剣な社長の目に、真理子はうつむきながら、こくんとうなずいたのだ。



 夜の広場には、いつの間にか寒さの和らいだ優しい風が吹いている。

 社長は夜空を見上げると、両手を上げて大きく伸びをした。

「乃菜とね、二人で話したんだ。こんな風に父娘(おやこ)で面と向かって話しをした事なんて、今までなかったよ」

 普段のスーツ姿とは違うカジュアルなシャツ姿の社長は、両手を頭の上で組むと、父親の顔で振り返る。


「夏祭りの時、真理子ちゃんが乃菜の頭につけてくれた、王冠のおもちゃがあったでしょ?」

 真理子は社長のデスクに立てかけてあった、写真たてを思い出した。
< 282 / 413 >

この作品をシェア

pagetop