成瀬課長はヒミツにしたい
 そこには、肩で息をしながら走ってくる成瀬の姿があった。

「柊馬さん……」

 そうつぶやきながら、真理子の視界はどんどんぼやけてくる。

 真理子は乃菜からもらった絵を、ぎゅっと胸に抱きしめた。


 ――どうしてだろう。柊馬さんの顔を見ただけで、どうしてこんなにも、胸が苦しくなるんだろう。どうしてこんなにも、あなたが愛しいんだろう……。


 真理子は顔を上げると、そっと足を前に出す。

 そしてぽろぽろと頬に零れる涙もそのままに、いつしか成瀬の元へと駆けだしていた。


「真理子……」

 成瀬の低い声が聞こえた。

 真理子が潤んだ視界で前を見ると、成瀬は両手を広げている。

 真理子は、もつれる足を必死に前に出すと、そのまま成瀬の胸に飛び込んだ。


「ごめん……」

 成瀬の愛しい声が、体中に響く。

 真理子はたまらずに声を立てて泣き出した。


「俺は自分の気持ちに嘘をついて、お前を傷つけた」

 成瀬は真理子を力いっぱい抱きしめながら、苦しそうに声を出す。
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