成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子は成瀬の胸に顔をうずめたまま、何度も何度も首を横に振った。

「真理子」

 成瀬は真理子の名前を呼ぶと、そっと顔を覗き込む。

「お前の事を離したくない。初めてなんだ。こんな気持ちになったのは……」

「柊馬さん……」

 真理子は成瀬の腕の中で、そっと顔を見上げる。

 成瀬は真理子にほほ笑むと、ゆっくりと目線を前に向けた。


「明彦……やっぱり、真理子は渡せない」

 社長は成瀬の言葉にふっと小さく笑うと、ゆっくりとこちらへ近づいて来る。

「いいよ、もう覚悟してたことだからね……。やっぱり俺じゃ、役不足だったってこと!」

 あははと笑いながらそう言ったあと、社長は真面目な顔をして成瀬を見た。


「でも……初めてだよね。柊馬が俺に本心を言ったのは、初めてだ」

「明彦……」

「柊馬は、人を思いやりすぎるんだよ。時には自分勝手になったっていい。その方が、人間らしいでしょ?」

 社長はおどけたように言うと、真理子に向き直る。
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