成瀬課長はヒミツにしたい
 そして、真理子が握りしめている、乃菜の絵をそっと見つめた。

「乃菜と俺の想いは、届いたみたいだね。これで安心して身を引ける」

「社長……」

「真理子ちゃん。またね」

 社長はくるっと向きを変えると、後ろ手に手を振りながらマンションの入り口へと消えて行った。

 真理子は成瀬とともに、その後ろ姿を静かに見送る。


「乃菜と明彦の想いって?」

 しばらくして成瀬が、不思議そうな顔をしながら、真理子の手元を覗き込んだ。

 真理子は、乃菜からもらった絵をそっと広げる。


「これは……」

 絵を覗き込んだ成瀬が、目を丸くした。

 真理子は首をすくめながら小さくうなずく。

 そこに描かれていたのは、お揃いのエプロン姿で手をつなぐ、真理子と成瀬の絵だった。


『のなね、まりこちゃんには、いつもわらっててほしいの』


 乃菜の可愛らしい声が、真理子の中で響いた。


『とうたんと、いっしょにいるときのまりこちゃんが、いちばんわらってるから。のなも、パパも、おうえんしてるよ』
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