成瀬課長はヒミツにしたい

新しい日常

「失礼します」

 社長室の扉を開けた真理子は、視界に飛び込んできた成瀬の後ろ姿に、ドキッと心臓を跳ね上がらせる。

 一方の成瀬も、真理子の視線に気がつくと、優しく口元を引き上げた。


 成瀬と想いが通じてしばらく経つのに、いまだに真理子はドキドキが収まらない。


 ――イケメンは三日見たら慣れるって言うけど、あれは嘘だよね……。


 真理子はつい、成瀬の甘い口元を思い出し、顔を上気させた。

 書類を抱きしめながら頬を染める真理子と、優しくほほ笑む成瀬。


 すると、二人の間に入って、社長があからさまに大袈裟なため息をつく。

「あーあ。毎日、毎日、やってらんないなぁ。それを見せつけられる、こっちの身にもなってよね」

 社長はまるで劇でも演じているかのように、わざとらしく涙を拭くふりをする。


 はっと我に返った真理子は、成瀬と顔を見合わせると、くすくすと肩を震わせた。
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