成瀬課長はヒミツにしたい
「会議室だろ? 俺も参加するから、持って行くよ」

 手慣れた様子でトレーを持つ成瀬の後について、廊下をゆっくりと歩く。

 真理子は成瀬の整った横顔をそっと盗み見た。


 会社で見る成瀬の顔は、家政婦の時とは全く違う。

 ましてやプライベートの甘い顔なんて、きっと誰も想像できないだろう。

 本当は“クール王子”なんかじゃない、成瀬の秘密を知っているのは自分だけだと思うと、ちょっとした優越感だ。

 真理子は思わずクスリと肩を揺らした。


「どうした?」

 成瀬が真理子の顔を覗き込む。

「柊馬さんの、色んな顔が見られて嬉しいなって……」

 そう言いながら顔を上げると、不意を突くように成瀬が真理子にキスをした。


「なっ……」

 真理子は立ち止まると、さっきよりもさらに顔を真っ赤にする。

「俺も色んな真理子の顔が、見られて嬉しいよ」

 成瀬は悪戯っぽくそう言うと、涼しい顔で会議室に入って行った。

「もうっ……いじわる王子!」

 真理子は火照る顔を両手で仰ぎながら、後を追うように会議室に駆け込んだ。
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