成瀬課長はヒミツにしたい
「そんなに一気に食べたら、喉に詰まっちゃうよ」

 明彦は慌てて乃菜の背中を、ぽんぽんと優しく叩いた。

「パパがはじめてつくってくれた、おにぎりだもん……。おいしいんだもん」

 そう言って顔を上げた乃菜を見て、明彦ははっとする。

 乃菜は涙を堪えながら、必死に笑っていた。


「のなちゃん。あそぼう!」

 しばらくして、早々に昼食を終えた友達が、声をかけに来る。

「うん! パパあそんでくるね」

 乃菜は明彦を振り返らずにそう言うと、急いで靴を履いて駆けて行った。


 友達と芝生で遊びながら、体操着の袖で何度も涙を拭う乃菜の姿に、明彦は空を見上げる。

 青空に浮かぶ雲は、ただ静かに流れていた。

「俺が守りたかったものって、なんだっけ……」

 明彦はレジャーシートに仰向けに倒れると、目元を腕で覆う。

「それすらも、もうわからなくなっちゃったよ……」

 目尻を伝う涙は、糸を引くように零れていった。
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