成瀬課長はヒミツにしたい
　週が明け、真理子は出社するとすぐにパソコンを立ち上げ、社長のスケジュールを確認する。

「そっか。今日は午後からの出社か……。遠足、楽しかったかな……」

　真理子はふと、親子遠足を心待ちにしていた乃菜の笑顔を思い出す。

　真理子が一緒に行くと言った時、あんなにはしゃいでいたのに、行ってあげられなかった。


「柊馬さんの唐揚げ、一緒に食べたかったよね……」

　真理子は小さくため息をつくと、社長室との間の扉をそっと開け、いつもの清掃を始めた。

　デスクの上には変わらず、夏祭りの日の乃菜の写真が飾ってある。

　頭にちょこんと乗っかっている王冠のおもちゃ。

「社長だって、きっと心の中ではいろんな想いがあるはず……」


　先代の想いのこもった事業から撤退するという決断に至るまで、社長にはどれ程の葛藤があったのだろう。

　ふと見上げた壁には、先代の手書きの額縁が見える。

　真理子は動かしていた手を止めると、成瀬との会話を思い返した。
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