成瀬課長はヒミツにしたい
「そんな……」

 真理子は思わず口元を両手で押さえると、あふれる涙をこらえながら成瀬を振り返った。

 成瀬も全く知らなかった話なのだろう。

 目元を手でぐっと押さえると、うつむくように下を向いている。


『私はきっと、一生孫には会えないだろう。それでも、あの子が生まれてきてくれた喜びを、私は私のやり方で残しておきたいんだ……』


「これを見せてくれた時にね、先代はそう言っていたよ」

 真理子はたまらずに声をあげて泣き出した。

 先代の深い愛情が、この設計図には刻まれている。

 本当は、自分の孫を、乃菜を抱きたかっただろう。

 妻を亡くした息子に、優しい言葉をかけ慰めたかっただろう。

 先代の願っても叶わなかった想いが、この一枚の紙に詰め込まれている気がした。


「この設計図は君たちに託すよ。そのまま一生しまっておいても構わない。どうするかは、君たちで決めたらいい」

 常務は穏やかな声でそう言うと、優しくほほ笑んだ。
< 344 / 413 >

この作品をシェア

pagetop