成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子は入り口にかけられた看板を見上げ、ふと「あれ?」と小さく首を傾げる。


「お待ちしてました」

 すると60代くらいの品のいい女性が、扉から顔を覗かせる。

 製作所名の入った上着だけ着ている所を見ると、事務員なのだろうか。

 真理子は成瀬に続いて頭を下げると、女性に案内されるまま工場の奥の事務所へと入って行った。


「わざわざサワイさんの方から起こし頂けるなんて。今、息子を呼びますので、おかけになって少々お待ちください」

 常務の話だと、この会社は最近、社長が代替わりしたようだ。

 この女性の言う息子とは、きっと現社長の事だろう。


 ――この人は、社長のお母さんか……。


 真理子がぼんやりそんな事を考えていると、女性はお茶をテーブルに置きながら、真理子に優しい笑みを見せた。


 ――どこかで会ったこと、あったかなぁ?


 真理子が小さく頭を下げると、女性はもう一度ほほ笑み、そのまま事務所奥のデスクに向かい受話器を取り上げる。
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