成瀬課長はヒミツにしたい
「きっとみなさんに、多大なご迷惑をおかけしたのだろうと思っています。あの子の様子を見て、そう感じたんです」

「お母様……」

 真理子は何も言う事が出来ず、目線を下に向ける。


 卓也がしたことは、確かに大きかった。

 でもそれは、両親を、家業を守りたいという気持ちから来たものなのだろうと、今になってわかる。


「元々この工場は、主人の代で終わる予定でした。こんな先行きも暗い町工場なんて、継いでも苦労するだけでしょう?」

 母親はくすっと笑うと肩をすくめた。

「でも今は、卓也が継いでくれてほっとしています。真理子さん。今回の話も含め、本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げる母親に、真理子は慌てて手を伸ばすと、その細い腕を支えた。

「卓也くんはご両親想いの素敵な息子さんです。きっと立派な社長に成長して、この工場をもっと前に進めていくと思います」

 母親の目尻にキラリと涙の粒が見える。


 ――ここに来られて良かった。


 真理子は心からそう実感していた。
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