成瀬課長はヒミツにしたい

人生のパートナー

「社長に伝わったでしょうか？」

　真理子は手に持っていたグラスを机に置くと、隣に立っている成瀬を見上げる。


　会場内は歓談の時間となり、和気あいあいと楽しむ声が、あちらこちらから聞こえていた。

　社長の周りには常に人が集まり、乃菜も一緒に笑顔で過ごしている。

　卓也が工場長や、商品企画の部長と挨拶している様子も遠くに見えた。


　成瀬はグラスを傾けて、一口ワインを口に含むと、真理子の耳元に顔を寄せる。

「伝わったさ。これでわからなかったら、明彦はかなりの鈍感さんだ」

　顔を最大限にしかめる成瀬に、真理子は思わずぷっと吹き出した。


「水木さーん」

　名前を呼ばれ、声のする方に目を向けると、両手をあげて大袈裟に手を振っている田中さんの姿が見えた。

「わぁ！　田中さん！　私、ちょっと行ってきますね」

　真理子は田中さんに大きく手を振り返すと、小走りで人々の中に入って行く。

　成瀬はそんな真理子の背中を、愛しそうにじっと見つめていた。
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