成瀬課長はヒミツにしたい
 成瀬は静かに息を吸うと、ほほ笑みながらそっと口を開く。

「真理子……結婚しよう」


 突然、成瀬の口からこぼれたその言葉に、真理子は目をまん丸に見開いて息を止めた。

「……え」

 真理子は口を開くと、言葉にならない声を漏らす。


 まさか成瀬からプロポーズされるなんて、予想もしていなかったのは当然だ。

 ここ最近はイベントの準備や卓也の工場の手伝いに追われ、二人きりで過ごす時間なんてほとんどなかった。

 それなのに、成瀬が自分との将来を見つめてくれていたなんて。

 真理子は胸がいっぱいになって、息苦しくなるほどだった。


 シーンとした会場では、誰もが息をのんで二人の成り行きをじっと見守っている。

「返事を聞かせて」

 成瀬が再び、優しくほほ笑みかける。

 真理子は、しだいに溢れてくる涙をぽろぽろと零しながら、首をこくこくと何度も縦に振った。


「……は……い」

 やっとのことで絞り出した声は、成瀬以上にその場にいた人たちを飛び上がらせた。
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