成瀬課長はヒミツにしたい
 「わぁっ」と大きな歓声が聞こえ、拍手が鳴り響く中、いち早く乃菜が飛び出してくる。

「まりこちゃん! おめでとうー!」

 乃菜は、真理子と成瀬の足にしがみつき、満面の笑みでぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「いやぁ。めでたい、めでたい」

 田中さんが涙を流しながら、今にも躍り出しそうな勢いで、両手をくるくる振っている。

 その場にいた誰もが、いつまでも祝福の声をあげていた。



「最後は、二人に持って行かれましたね」

 小宮山が、目尻にうっすらと浮かぶ涙を指でなぞりながら、隣の社長に声をかける。

 今二人は、社内中のみんなに囲まれて、もみくちゃになっている。

 ステージの前では、若手の社員たちが声を掛け合いながら、成瀬を胴上げし始めた。


「あぁ」

 その様子を、笑顔で見つめる社長の瞳も潤んでいる。

「あの二人には、返しても返しきれない程の、想いをもらったよ。だから、幸せになって欲しい……」

 社長は嚙みしめるようにそう言うと、少年のような笑顔で、二人の元に駆けだしていた。
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