成瀬課長はヒミツにしたい
「そこのパーク内のショップで、このティアラを取り扱ってもらえないか打診したところ、先方から前向きな返答をもらえました」


 ――えっ?


 目をまん丸にする真理子を見ると、社長は小さくうなずく。

「さらに、つい先ほど先方より連絡が入り、ティアラを付けてイルミネーションをめぐる、という大々的なプロモーションを提案されました」

「えぇ?!」

 会議室の中は、一気にヒートアップしたようにざわめき出す。


 ――やっぱり社長の営業力ってすごい。規格外なんだ……。


 そんな事を考える真理子の耳には、みんなが口々に何か言っている声が響いていた。

 一向に収まらないざわめきに、社長は急に不安そうな顔つきを見せる。

「また独断で進めてって、思ってますか……?」

 途端に室内はシーンと静まり返る。


「誰もそんな事、思っちゃいない」

 おもむろに立ち上がった成瀬が、そうつぶやくと静かに手を叩きだした。

 真理子もつられるように立ち上がると、力いっぱい手を叩く。


 拍手の波は次第に大きくなり、割れんばかりの拍手は、はにかんだように笑う社長をいつまでも包みこんでいた。
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