成瀬課長はヒミツにしたい
「じゃあ、私、カレーがいいな」

「オッケー」

 ぴょんぴょん跳ねる乃菜と、並んでエレベーターホールに向かう。

 最近、自分の事を“私”と呼ぶようになった乃菜だが、ふとした瞬間にはまだまだ幼さが残る。

 そんな乃菜の様子を見つける度、どこかでホッとしている自分がいる。


 ――俺が子離れできなくなりそうだ……。


 明彦が肩をすくめながらエレベーターのボタンに手を伸ばした時、聞き覚えのある叫び声が耳をかすめた。


「しゃ、しゃ、しゃ、社長―」

 この声は明らかに夏美のものだ。

 小宮山とは、さっき別れたばかりなのに、何かあったのだろうか?

 明彦は急に不安が襲う心を落ち着かせるように、ゆっくりとエントランスを見回す。

 すると鬼の形相で、もつれた足を必死に出し、今にも転びそうになりながら夏美が走り寄って来た。


「やだ! なに?! パパ、怖い……!」

 乃菜は走り寄る夏美に飛び上がると、明彦の背中にひっしとしがみつく。
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