成瀬課長はヒミツにしたい
「真理子ちゃん、お疲れ様。よく頑張ったね」

 明彦は、乃菜と共に赤ちゃんを覗き込みながら、小さく声を出す。

「男の子?」

 乃菜がキラキラとした目で真理子を見つめた。

「うん、そう。男の子だよ。乃菜ちゃん、これからよろしくね」

「うんっっ!」


 室内からは楽しそうな声が聞こえてくる。

 夏美はみんなの様子を、廊下からそっと眺めていた。

「志賀さんも入って」

 それに気がついた成瀬が顔を出し、小さく声をかける。


「で、でも……」

 うつむく夏美に、成瀬がそっと手招きをした。

「ここまで二人を連れてきてくれたんだろ? ありがとう。真理子もお礼を言いたいって言ってるんだ」

 成瀬が笑顔で促し、夏美はそろそろと中に入った。


 その瞬間、目の前に飛び込んできた赤ちゃんの顔を見た夏美は、滝のような涙を流し出す。

 みんなはぎょっとして、夏美の顔を振り返った。

()ずびばせん(すみません)……。か、感動して……」

 「うわーん」と声をあげて泣く夏美を、乃菜と明彦は笑いながら見ている。


「お姉さん、泣きすぎ! パパ止めてよー」

「いやいや、今はそっとしておいてあげて」

 そんな三人のやりとりを、真理子は成瀬と共に笑顔で見守っていた。
< 407 / 413 >

この作品をシェア

pagetop