成瀬課長はヒミツにしたい
 ――とにかく毎回、成瀬課長の距離感が近すぎるんだよね。


 真理子は頬にあてた手をぱっと離すと、ぽんと手を叩く。


 ――成瀬課長は、近視ってことにしよう。うん、うん。眼鏡外したら見えないもんね。そうだ、そうだ。


 “我ながら名案”と、真理子は腕を組んで頷いた。

 そして自分に向けられた冷たい視線に気がつき、はたと顔を上げる。

「あ……えっと……」

 しまった、打ち合わせ中だった。


「真理子さん。大丈夫ですか?」

 卓也が心配そうに、真理子の顔を覗き込んでいる。

 それと同時に、机の向かいから成瀬の大きなため息が聞こえてきた。


「水木さんは、百面相(ひゃくめんそう)か何かですか?」

 資料に目を落としたまま小さくつぶやく成瀬に、真理子は大きく頬を膨らませて睨みつける。

 その様子に卓也は首を傾げたが、成瀬はそんなこと意に介さず、淡々と話をつづけた。


「では、この三パターンで、一度社長の意見を……」

 成瀬がそこまで言いかけた時、突然後ろから現れた誰かが、成瀬の肩に親しげに手をかけた。
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