成瀬課長はヒミツにしたい
「それと……」

 成瀬の眼鏡の奥から覗く鋭い瞳が、真理子を睨みつけている。

「え?」

「水木さんは、もう少し集中してください」

 成瀬は資料を指先でトントンと叩いた。

「ひ……」

 真理子は顔を青くして背筋をぴんとさせる。


 今の成瀬の目は、仕事モードの“クール王子”じゃない。

 お怒りモードの“家政夫の成瀬さん”の表情そのものだ。

「は……はい」

 しゅんとした真理子の小さな声を聞くと、成瀬は再びため息をつきながらフロアに戻って行った。


「あーあ。怒られちゃったぁ……」

 打ち合わせスペースからデスクに戻る途中、真理子はぐったりと天井を仰ぐ。

 成瀬の顔を見ると色々と考えてしまい、どうしてもペースを乱される。


 はぁとため息をつきながら隣を振り返ると、卓也はさっきから下を向いて黙ったままだ。

「どうしたの?」

 真理子は首を傾げながら、卓也に声をかけた。
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