成瀬課長はヒミツにしたい
 業務的にしょうがないとは言え、こんな奥に押し込められているから、恋にも縁遠くなるのではないかと、恨めしく自分のデスクを見つめた。


 するとどこからか「成瀬課長だ……」という声が聞こえる。

 成瀬は打ち合わせなのか、奥の会議室の方へ向かっていた。

 一瞬、成瀬の冷めた瞳が真理子を見た気がしたが、無表情のまま通り過ぎる。


「部署異動があるかもって話、本当なんですかね?」

 遅れて入ってきた卓也が、真理子にそっと耳打ちした。

「どうなんだろ?」

 真理子は首を傾げながら、上司のシステム部長の顔を伺う。

 部長は、ぽよんとしたお腹を撫でながら、大黒様のような笑顔でパソコン画面を覗き込んでいた。


「あーあ。俺、異動希望出そうかなぁ。元々は営業志望だったんですよねぇ」

「ばか! 部長に聞こえるでしょうが」

 真理子は慌てて、卓也のデスクを指で叩く。
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