成瀬課長はヒミツにしたい
「みんな会社を良くしたいと思ってる。ただ、向いている方向がほんの少し違うだけ……そう、思いたいけどな」

 成瀬はそう言うと、赤信号で停車した車のハンドルから手を離し、真理子の手にそっと触れる。

「巻き込んで、悪かったな……」

 真理子は、成瀬の指先から伝わる熱に、鼓動が加速するように早くなった。


「柊馬さんは、何も悪くありません! あんな勘違い野郎、蹴散らしてやりましょう」

 真理子は照れ隠しするように、反対の手で拳を握り、前にぐっと突き出した。

 成瀬は一瞬、目を丸くして真理子を見つめていたが、くくっと声を漏らすように笑い声をあげる。

「本当に……真理子といると、元気が出るよ」


 前を向いて、またハンドルを握る成瀬の大きな手を見つめながら、真理子は成瀬に触れられたところが、じんじんと熱くなるのを感じていた。
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